陥没乳首とは正しくは陥没乳頭といい、乳頭が内側に埋没してしまっている状態のことを指します。成人女性の約10人に1人がこの陥没乳首であると言われています。
両方とも陥没している場合もあれば、片方だけ陥没しているケースもあります。そして、刺激を与えると乳頭が突出するものを「仮性」と称され、比較的軽度の陥没乳首と言えます。
対して、刺激を与えても突出せずに常に埋没した状態のものを「真性」と称して、比較的重度の陥没乳首とされています。
陥没乳首は、何らかの理由により乳頭を支える筋繊維組織が未発達であること、加えて母乳を乳頭に運ぶ乳管という組織が他の器官に比べて成長しきれなくなったことで陥没乳首となります。
そのような発達の不具合が生まれつきの場合もあれば、後天的な理由によって生じるケースもあり、例えば以下のようなものです。
成長期に個人差はあれど、女性の胸は大きくなります。胸が大きくなるのは、バストに脂肪が集中するようになるためですが、その段階で乳管の発達が追い付かなくなり乳頭が埋没してしまうことがあります。
特に、近年では食生活の変化で女性が摂取する脂肪分の量は増加している傾向にあるので、バストサイズの平均値も上がっています。そのため、陥没乳首の発症率も上がっていると言われています。
サイズの小さいブラジャーをし続けることは、乳頭を長時間圧迫し続けることも陥没する要因になりえます。特に成長期や妊娠中など、バストが大きくなる時期は注意が必要でしょう。
さらに女性の約7割がサイズの合わないブラジャーを着けているというデータもありますので、妊娠していない成人女性でも無関係ではありません。
陥没乳首は見た目が異形なため、コンプレックスを抱いている女性は多いです。しかし、陥没乳首の問題は外見だけではなく、以下のような問題も含んでいます。
赤ちゃんは乳頭から母乳を飲むので、肝心の乳頭が埋没してしまっては上手く飲むことができません。仮性の陥没乳首ならまだいいですが、真性の場合はさらに困難となるでしょう。
慢性乳腺炎というのは乳頭の下に膿が溜まり、それが皮膚に広まりさらに膿の出る穴を作ってしまう病気です。
慢性乳腺炎の初期段階では、乳輪の下にしこりのようなものができて、触ると痛みを感じます。放置しておくと膿がでてきて、炎症で赤く腫れ、場合によっては発熱や悪寒なども引き起こします。
慢性という名が示すように、一度治っても再発する可能性が高く、完治させるのは時間と手間がかかる病気です。
陥没乳首の方だけが患うものではありませんが、乳頭が埋没していると清潔さを維持するのが難しく膿がたまりやすくなるため、発症リスクは高いです。
陥没乳首は放っておいても命に関わるようなものではありませんが、やはり病気のリスクや授乳の問題があるので治しておいた方が良いでしょう。改善するには以下のような方法があります。
仮性の陥没乳首の場合は、マッサージによる改善が期待できます。以下のような手順でのマッサージが効果的です。
1.乳輪を押し出して乳頭を突出させ、優しく乳輪を横に広げるように伸ばし、これを繰り返す
2.次に乳頭をつまんで痛くない程度に軽く引っ張りしばらく維持
3.今度は乳頭を違う方向から摘み同じく維持
4乳頭を圧迫しながら、左右方向に動かす
マッサージの際は痛くなるほど強い力を入れないように注意しましょう。入浴後などに行うとさらに効果が高まります。
陥没乳首を自身のケアで治すための専用器具があり、それが乳頭吸引器と呼ばれています。加圧により、乳頭を吸引して引っ張り出すような仕組みです。
パッチ上のものから注射器のような形状のものもあり、様々な種類があり市販されています。使用する際は、加圧しすぎて乳頭を痛めてしまわないように注意しましょう。
陥没乳首が重度の真性である場合は、上記の手法では改善できない可能性が高いです。そうなると美容外科にて手術するしかありません。
陥没乳首の手術は乳頭を内側に巻き込んでいる筋肉を切断して、乳頭が自然と突出できるようにします。
費用なども高くついてしまいますが、真性の場合はとりわけ衛生面での不安がありますので、きちんと治すのが得策です。
陥没乳首はあまり珍しいものではないので、悩んでいる女性は少なくありません。外見からのコンプレックスや授乳のしづらさ、病気のリスクなどの問題も無視できないものです。
まずは自身で改善できるように試してみて、もし効果が表れなかったら美容外科の専門医に相談してみましょう。
医療法人社団東美会 理事長 兼 東京美容外科 統括院長
麻生 泰 医師
・慶應義塾大学医学部 非常勤講師
・日本形成外科学会
・日本美容外科学会
・日本マイクロサージャリー学会